バタバタ龍

 作品別感想に三田紀房「甲子園に行こう!」の17・18巻の感想を追加。やっぱ野球漫画は面白いや。
 さて、映画感想。市川準監督作品「トニー滝谷」。
 原作は村上春樹の同名小説。音楽は坂本龍一。主演はイッセー尾形宮沢りえ、朗読に西島秀俊、かなり強力なメンバーがそろっている。まあ、音楽は印象に残ってないんだけど、とにかくまあ不思議な余韻がいつまでもとどまっている映画である、75分。
 私の中では市川監督っていうのは退屈な映画をとる人って決め付けちゃってるんだけど、漫画好きにとっては「トキワ荘の青春」の監督さんといえばわかるかな。まああれも退屈といえば退屈かな。私の中ではとにかくそういうイメージが離れなくて、それは今回も同じだった。でも、その退屈さはつまらないという感想を促しはしないんである。ここらへんが面白いところだけどね。前に撮った「竜馬の妻とその夫と愛人」なんてさ、三谷幸喜の脚本ですよ、それをこの監督はしずかーな映画にしちゃってるんだから(もちろん三谷脚本らしい台詞の応酬も演出しているんだけど。ちなみにこの映画で竜馬のそっくりさんを演じたのが江口洋介ね。)、今回の朗読劇みたいな様式で淡々と綴られる映画は、もうこちらから積極的に読もうという気がないと全然駄目かもしれない。そう、この映画は、かつて高野文子が小説を読むことを漫画にした「黄色い本」よりももっと突っ込んで読むことを映像化した映画なのである、と思う。
 原作は未読だけど読んだ人の感想によると、村上春樹の文章をそのまんま使用しているらしい。で、これを朗読するのが西島秀俊。たまに出演者が一部を読むこともあって、最初かなり違和感があったんだけど、物語が進むにつれて気にならなくなっていく。この感覚は、小説の登場人物を勝手に配役決めて想像して読むようなものに近い。監督が想像した配役がイッセー尾形宮沢りえ。イッーセー尾形が芸達者なのは言うまでもなく、宮沢りえも最近の高い評価を証明するような美しさと演技力をびしびし感じた、いや本当に彼女は綺麗だわ。演出も徹底してて、ほとんど対象に寄らないんである。彼らの日常の一場面がカメラの前を通り過ぎていくような、それはまるでページをめくっている気がしてきて、声は西島秀俊なんだけど、読んでいるのは自分みたいな錯覚を促すけれども、主人公の孤独感が映像として表現されているものだから、なんか上手くいえないけど、奇妙なんだよ。言葉として頭の中に入ってくる主人公の気持ちが、すでに映像としてイッセー尾形の表情に表れているので、想像したものがスクリーンに映し出されているとでも言おうか、さすがにそれは大袈裟か、まあとにかく不思議なんだよ。映画を見ているのか本を読んでいるのか、はっきりしないし、時には舞台劇なんじゃないかとも思えてくるし、でも目の前のスクリーンには二人が映っているし、宮沢りえは美しい・まさに美しいし、全てを捨て去って独りぼっちになったトニーは、最後の最後、映画として描かれるのである。
 パンフの監督の言によると、ラストシーンは原作にはないというので言及しないけど、ほんとのラストになってふっと戻ってくる(思えば最初のシーンも映画らしかった)と、ああ終わった、という感じでエンドクレジットとなって、なんかすげーと感心しまくってる自分がいて、でもやっぱり音楽は忘れているのであった。