コメノ米野

 別にやる必要ないといえばないんだけど、やったらやったで面白い今年のベスト漫画。先日挙げた10作品を今眺めると、なんか異様なのが混じってるな。最初普通に並べたら、あまりに普通だったので、一個だけでも変なの入れとこうとした結果である。
 こうの史代「夕凪の街 桜の国」 多分、この手の企画をすれば必ず入ってくるだろう作品がこれだね。昨年、すでに雑誌・同人誌で同作品を読んでいた人たちがかなり興奮した口調というか文調で語っていたのが印象的で、待望の書籍化だったわけだが、期待以上の出来にみんな驚愕。ヒロシマ・原爆という言葉が乱れ飛ぶなかで、あえてそれら二語を使わずに感想書いた私に誰か気付け。それはともかく、生涯のベスト10作品に入るだろう事は間違いない傑作だ。漫画はやっぱり素晴らしい。感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yuunaginomati.html
 緑川ゆき「緋色の椅子」 もう私のサイトを長く見ている少数の方々には食傷かもしれない緑川作品を私は今年も強く推す。だって好きなんだもん。短編作家という印象を抜き払った作者渾身の一作である。架空の世界を舞台にしたことで、これまでの学園物とは一線を画す作品になると思いきや、根っこは人々の悲しみを描いたいつもの緑川ゆきだった。長編短編出揃ったところで、さてここからワンパターンな作家になるか、さらに飛躍してくれるか、大いに楽しみ。来年も注目だ。感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/hiironoisu.html
 安永知澄「やさしいからだ」 素晴らしいって言い過ぎかもしれないけど、本当に私には衝撃的だった安永知澄の初連載作品。2巻読んでまたショック。短編集読んでさらにショック。登場人物だけではなく、感情やテーマも緩やかに繋がっていることに気付こう。読み応え抜群だけど、作風は至って冷静。作者に弄ばれるのなんて全然悔しくない、むしろもっと翻れ! 感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yasashiikarada.html
 今年はこの3作品が格別だった。「やさしいからだ」はまだ連載中だけど、作者はまだまだ何かやってくれそうな気がする。多彩な筆致に期待。
 あずまきよひこよつばと!」 淡々とした話の中にもきっちりと仕掛けを施しておく作家性に惚れる。あずまんが大王よりも話の焦点が定まっている分、読みやすく惑うこともない。素直によつばの言動を楽しめる漫画だ。すごいなー、作者。今連載が終わっても全然構わないし、このままずっと連載が続いても心配ない。感想はここhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yotsuba-3.html
 宮下英樹センゴク」 変なの入れてみた。戦国時代を舞台にした歴史物。主人公は仙石秀久というヘタレ武将というかアホ武将として名高い奴。でも、県内の藩主になった人で、昔「信長の野望」やってたときは真田とか村上小笠原なんかとともに贔屓にしてた武将である。がんばれヘタレ! 通説をひっくり返せ、という作者の意気込みも楽しいが、作者自身までひっくり返りそうな気配もあるので、来年はどうなるか。今後の展開次第では見切りつけることもありうる。
 椎名軽穂「Crazy for you」 少女漫画も何か入れとこうと振り返ったら、これしかなかった。アルコの新刊が今月末に出て期待してたんだが、椎名ほどではなかった。少女漫画とはなかなか相性が合わないんだが、椎名作品は結構読める。話自体は恋愛漫画の王道を行ってるんだけど、惹かれるものがある。短編ばかり描いてただけに話の構成力に無駄がないものの、初の長期連載という点が不安でもある。来年以降の展開ではどぶに捨てる可能性もあり。全5巻で終われるか否か。赤星頑張れ。
 幸村誠プラネテス」 連載は昨年の暮れに終了しているが、単行本派の私には実質今年の作品。作者への敬意を込めて。幸村先生ありがとう。感想は時に4巻のをどぞhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/puranetesu4.html
 戸田誠二「しあわせ」 今月末には三冊目となる「ストーリー」も上梓しているweb出身の漫画家・戸田氏の二冊目の作品集。昨年の「生きるススメ」に続いて今年も挙げた。雑誌の中では埋もれそうな地味な作風だけに、今後もこのような形で作品を発表して欲しい。もっとも感動した「アポトーシス」の感想はこっちhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/apoptosis.html
 ひぐちアサおおきく振りかぶって」 連載中の作品は期待値込みで選んでしまうけど、これは2巻までの内容でも十分読み甲斐のある作品である。作者の野心作にして傑作の可能性を早くも秘めている。川村さんありがとう。感想はこれでもどぞhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/eigateki/ookiku-vsmihoshi.html
 せがわまさき山田風太郎バジリスク」 10作品目が大いに悩んだ。いっそのこと9作品でよくね? とも考えたが、やっぱ十挙げないとしっくりこないので。「放浪息子「エマ」でも良かったし、「アニメがお仕事」でも楽しいし、「団地ともお」はおかしいし、連載中の作品ばかり思い浮かんだ中で、今年見事に着地した「バジリスク」に時に落ち着いた。田中ユタカのとか宇仁田ゆみのとかでもよかったんだけど。一週間後には気が変わってるかもしれないが、まあいいや。十分に楽しませてもらった作品だし、作者の誠実さも好感、偉いな。

 全漫画家に敬礼! 今年も面白い漫画をたくさんありがとうございました!