佐藤若手

 本サイト今年最初の更新は安永知澄「やさしいからだ」2巻の感想。
 えー、当サイトでは、昨年から始めたここも含めて、時事問題とか事件とかに言及することは面倒なので避けてきたんですが、ちょっと面白い本を読んだので、奈良で起きた少女誘拐殺害事件についてちょっと。ここでは視点を変えて考えてみようと思う。
 この手の事件がおきると犯人の人物像に焦点が集まるんだけど、はっきり言えば、危ない奴なんて今も昔もいたわけで、そんな奴の考えまで制御しようだなんて出来ない。ではなんで犯行が出来るのか、という点に着目したほうが早い。つまり、犯罪を助長しているのは、ゲームやらオタク趣味やらなにやらではなく、犯罪が起きやすい土壌を、日本は必死になって築いてきてしまったっていうこと。それが、急速に進む郊外化なのである。均一化する地方の風景をファストフードならぬファスト風土と名付け、その危険性を論証した本が「ファスト風土化する日本」だ、著者・三浦展。細かな戯言はおいといて、早速この本の一節を引用しよう。
 「連れ去り事件というと、容疑者はロリコンだったとか、アニメやゲームのマニアだったという点にばかり注目が集まるが、そんなことよりも重要なのは、交通網の整備と各種の開発の推進によって地域社会が急速に都市化し、均質化し、他方で流動化し、匿名化することで、犯罪を助長する土壌が広がっているという点なのである。」
 この本が出たのは2004年の9月頃だけど、過去に起きた連れ去り事件を実地検証し、その多くが地方の郊外で起きている点を指摘しているのが興味深い。道路の整備によって移動が容易になるということは、住宅地から離れた郊外に大きなデパートや電気店が出来ても、十分に商売が成り立つ。人が来ればまた新しく店が出来る。私の地元でも、それまで中心部にあったデパートは撤退あるいは郊外に移転している。そこには当然のようにヤマダ電機とかコジマ電機、西友とかの百貨店、車の出入りが多いからそれ関係の店、パソコン関係の店と、大通りを中心に急速に発達している。その道は当然のように高速道路へと繋がっている。また地方の車保有率が一家一台から一人一台に移行していることも見逃せない、道路網の整備が地方の郊外の都市化を促進したということだ。都市化ってことは真面目な話、犯罪率も都市化するわけで、東京の犯罪発生率の伸び率が少しなのに対し、地方は東京並み、地方によってはそれ以上の発生率になってるとこもあって、それは私の地元も例外ではないし、奈良県も例外ではない。各都道府県の人口1000人あたりの刑法犯認知件数の2002年のデータを見ると、東京都24.7、奈良県22.3、1970年は東京都19.2に対し奈良県は11.7。つまりね、かつて東京に集中していたもんがどんどん周りに移転していって、埼玉とか千葉とかが東京の郊外になって犯罪が多発したって現象が、各地方都市で起きているってことである。地方の郊外化による犯罪多発の危険性は1992年の「警察白書」ですでに指摘されているとも本は明かす。警察は知ってたんだよ。
 今回の事件、マスコミはやらないだろうけど、郊外ってのを頭に入れておさらいしてみると、また違う解釈が出来るかもしれないね(ただしこの本、面白かったんだけど私にはちょっと強引かなーという論旨もあった)。