秋田戦線壊走

 野球漫画を読もうということで、まずは三田紀房「甲子園へ行こう!」の15、16巻を購入した。話の途中からだったけど、面白いではないか。無性に野球ゲームがしたくなってきた、いや、もう野球できるような敏捷な身体じゃないので、気分だけでもと。早速フリーの高校野球シミュレーションゲームを落としてプレイ中。激戦区神奈川を選んで新設校でいきなり挑戦、もちろん高校名は「墨谷」。墨谷なら東東京か西東京なんだろうけど、この手のゲームはいつも神奈川県を選んで予選の緊張感をたっぷり味わいたいのである。
 で、漫画のほうなんだけど、絵が固いね。はっきり言って下手に見えるんだけど、それは言わない約束なのかな。投球理論はきっちり劇中で消化されてて上手いこと作画に生かされているんだけど、肝心の試合場面……テンポがちょっと狂う。この作者の作品を読みなれていないせいかもしれないけど。直球、スライダー、フォークと投球を書き分けてるし、両ベンチの表情もわかりやすくて力入るんだけど(ここは真剣に野球の応援したことあれば実感しやすいね。好機逸して「ぐううっ」で悶えるように悔しがるところとか、負けたーで頭抱えたり)、この辺の描写に微妙に福本伸行風味を感じてしまう、線の固さも含めて。あるいは最近凝ってる溜めと抜きを読もうとしても、あんまない、細かくはあるんだけど全体を通すと淡々としてる。試合のダイジェストを見せられている感じで、選手の心理は親切に説明されているんだが、それがまたテンポを狂わす原因かもしれん、もちろん私にとってのテンポだよ。15巻第160話の四之宮と夏井の対決(ノンブルがわからん)、見開きが6コマに分かれている。1コマ目右頁縦半分にぶった切って四之宮の渾身のストレート、2〜4コマで夏井がスイングを始めて両者のアップ後、5コマ目で打撃、6コマ目で左頁縦半分で空高く飛んでいく打球を審判の背中からセンターまで入る視点で描写。この漫画って主人公のチームが必ず勝つわけじゃないんで、一巻から通して読んでいる人は多分、どっちが勝つんだろってワクワクしながら読んでいると思う。私も主人公が負けそうな雰囲気をひしひしと感じながら読んでいるし、そういう雰囲気が描かれていた。さてしかし、ここも淡々と頁を捲ってしまうんである。次頁以後に対決の結果が描かれても、そこもサクサクと読み進めているんである。なんでかって考えると、さっきの1コマ目の前までに四之宮のモノローグが続いてて力いっぱい投げ込むぞって盛り上げていて、つまり溜めに溜めてから直球を放るわけ。ここで抜かれるんだよね、と思ったら夏井が打つまでに四之宮の独白に費やしたコマ数に近いコマ数が使われてて、また溜めが出来るんだよ、今度は夏井が溜めるのね。抜かれてスッと試合が転がる矢先でまた間を置かれるんで調子がおかしくなる。勢いが削がれるんだ。しかも次の頁めくると、左頁がちらっと見えてしまうんで結果が丸わかりなのである、だから右頁を読むにしてもなんか白けてて緊張が途切れた。まあ、ほっとする場面ではあるんだけど。ここ、私が先週考察した「おおきく振りかぶって1巻175頁と比べると、明らかに間が長いんだよ。抜いて気分が解かれる間もなく溜めが作られるから、昂揚感がなかなか上がらず重々しいまま。連載で読んでれば、一話終わるごとに息つけるんだろうけど、単行本で読むと、結構疲れる、すらすら読んでると思ってるのに、あっちこっちで溜まったテンポが解放されないままひそかに澱んでいる。試合が終わってやっと一息つける、緊張から解かれた感じではなくて、蒸し暑さから解放された感じに近い。いや、面白いんだよ。全巻購入するからね。
 もうひとつちょっとだけ、9回に夏井がレフト線にヒット打つ場面にしても、テンポを妨げるように合間合間にキャラの台詞が挟まるんだよ。四宮投げた→夏井好打→レフト線ヒット→二塁走者三塁回った→レフト好捕してバックホーム→捕殺って一連のテンポ、ここ台詞なくても緊迫感ありまくりなんだよ。でも矢印のところで2、3コマ必ずキャラがなんか思ったりしゃべったりしてて、いちいち引っかかってしまった。状況やキャラの心情を一場面ごとに説明描写したいんだね。うん、わかりやすいよ。躍動感に欠けた描線に流れを作るには1コマでも多くそれを補う場面が必要なのかもしれないからね。
 スポーツ漫画のように動きのある場面の絵作りは難しいね。これはこれでいいって読者もいるだろうし。まあ、これが三田野球の味なんだろう。全巻読み通してからまたなんか書こう。