あっちコッチ高津

 アイシールド21のセナの走りのスピード感は、要は狭いところからの開放感っていうのが常にというかだいたいある。見開きの使い方もその表現も丁寧で、実に王道、破綻が少ないのね。で、それは一巻一話でほとんど完成されている。あとはその応用と言ってもいいかもしれない。不良三人組に追われるセナが雑踏の前に立ち止まってルートを確認、これが上手いね。このルートの描写によって、読者は直感でここを駆け抜けるセナのイメージをつかめる、この後のセナの走る姿を見るだけでルートを移動しているってのが理解できる、テレビゲームっぽい演出っていえるかもしれん、いやテレビゲームには詳しくないけど。とにかく直感でもセナの走る軌道をわかるようにしている。次に視線だ、ルート確保前にセナの目がアップされる、スキャンニングだね。一点に集中している感覚が同時に読者の視界をも狭くする、とは大げさだが、とにかくセナの視界が極限にまで縮まるわけ。コマが小さくなる場合もある、こうなると一層テンポが溜められる。試合中だとヘルメット被っているから、この狭さがさらに強調される、隙間から広い世界を偵察するって感じかな。で、見開きで一気にトップスピードですよ。また、ルートの描写がない場合は、その後のスピンする場面のように動きを細分化して描くか、走りぬけたルートをはっきりと描き示している。巻が進むごとにいろいろな演出が施されるけど、基本は変わってないと思う。この作品に限った話ではないけど、スポーツ物でわかりやすい描写を図るなら、これがもっとも有効なんだろうね。あ、でも同じ見開きでも違う効果を狙った漫画もあったね、山田芳裕。(他にも混乱しないような描写が結構あって楽しいね。投げられたボールの軌跡も想像できるようにコマが配置され、人物の向きも計算されている。そりゃまあ当たり前なんだろう、プロだもんな。)
 うわー、篠田昇さん亡くなったのか。最近だと「世界の中心で、愛を叫ぶ」か。岩井作品絡みで、この人はきれいな絵を撮るなーと感激してたけど、もうあの彩りは観られんのかな。