サイボーグ古田

 「スウィングガールズ」鑑賞。矢口監督にとっても矢口ファンにとっても「ウォーターボーイズ」のヒットは嬉しいことだったんだけど、それだけに本作はその二番煎じという非難が常に付きまといそうな印象があったし、事実何々(音楽を題材にした過去の名作いろいろ)のパクリとかという中傷もすでにあるし、何よりもフジの亀山が参画しているのがなんか嫌だったし、観る前からいろいろと複雑な思いがあったわけだが、いやー面白がっだず。よどみないし、くだらないベタなギャグもあるし、走り回る上野樹里はかわいいし、本仮屋ユイカかわいいよかわいいよだし、田中要次とか徳井優とか出てくるとなんかほっとするし、主人公鈴木だし、楽しく観ることが出来た。雑念も最後の演奏シーンで全部ふっとんだず。
 とにかく弛みがない。説明シーンを極力廃し、といって台詞で場面をつなげることもあまりしない。とにかく役者の表情と本作の場合は音楽でもってノリを維持し、クライマックスまでなだれ込んでいく。個人的に象徴的な場面は二つあった。横断歩道の「故郷の空」(パンフで確認した)のリズムを関口がジャズだと気付き、その後みんなで手拍子してジャズのリズムを掴むと、貧弱だった合奏がリズム感よく演奏されるくだり。ぷらぷらしていたかつてのメンバーがスーパーだかで上達した演奏を見せる5人に感銘を受け、身に付けたブランド品を売り払って楽器を購入して5人の演奏に加わるって場面。この映画、練習シーンがあまりないので、だんだん上達していく雰囲気に乏しいという理由から、いきなり上手く演奏する彼女達に違和感を感じている人々もいるらしいが、そんなもの映画観てれば猛練習場面は省略したんだなってすぐにわかりそうなもんなんだが。特に二つ目ね。音楽映画ってやっぱミュージカルっぽいノリもあるから、見栄えのいいところを繋げていくってのもあるんだよな。リズム感を掴んであっちこっちを手拍子・小躍りしながら歩く5人の姿なんて正にそうだ。野暮だよ、だんだん雪が降ってくることで、一曲の演奏時間で再結集するメンバー達が秋から冬にかけて、そこで練習していたって想像も出来る。
 まあでも正直鑑賞後の爽快感はちょっと薄かったな。矢口映画全てに通じていることだけど、妙に淡々としてる。ギャグは過剰な演出を試みるけど、それ以外は抑えて控えめに、無駄な台詞省き、回想もせず、偶然の出来事にあれよと流される鈴木さんたち(そのかわり役者の表情の作りこみに力が入っている感じ)。前半、「ひみつの花園」の鈴木ばりに物語を引っ張った友子が、終盤、重大発表を知らせずに落ち込んでいく姿は「ウォーターボーイズ」の鈴木並にしょぼくれるものの、偶然によって(これをご都合主義とかいうんかな……でもあれはさ、いや確かに都合いいけど、あそこで関口をきっかけに演奏はじめるも中断させられたらさ、なんか早く演奏聴かせてくれって欲求が出てきて、それがラストに結集していくんだから、私は見事に感動してしまったんだが、これって都合のいい客なのかね……)救われ、よどみかけた物語が復調して最後まで転がっていく。そのかわりテンポの大波が少ないんだな、ギャグの緩急は効いてるけど物語の流れにスウィングが足りないいんだよ。屋上で審査の参考にされる演奏を録画するところで、よっぽど下手な演奏でなければ落選しないって言われるんだけど、あそこは先生の指揮が下手糞なので落選ってオチかと予測していたんだよね(予測どおりになったらそれはそれでつまらんかもしれんが)。そしたら、そんな展開かよ、と。友子はうっかり者・忘れ物が多いって描写があればね。えっ? あったかな? あー、でも関口はよかったなー。役者本人がかわいいとかそういうの差し引いても、「なんか楽器出来る?」でリコーダーをそっと差し出すところでもうキャラ出来上がってるし、友子より先に吹奏楽部の様子を見に来ていたり。突っ走る友子はまさに主人公という格があるんだけど、それに対するおとなしいけどやる気は主人公以上ってのがベタだけどいいね、冷静さを失わない影の主役。ただはっきりと不満を言えば、吹奏楽部の顧問役は西田尚美にしてほしかった。それと、編集は監督自身にしてほしかった。
 というわけで面白かったけど、この映画にはスウィングがちょっと足りない。でも、また観ますよ。気持ちいい映画なんだもん。