一日ユウイチ

 漫画原作映画ということで「青い車」鑑賞。
 監督・脚本:奥原浩志 共同脚本:向井康介 音楽:曽我部恵一 原作:よしもとよしとも
 キャスト:ARATA 宮崎あおい 麻生久美子田口トモロヲ水橋研二 太田千晶 佐藤智幸
 さて感想。
 ただ、どうしようもなく、駄目。
 予想はしていたが、本当につまらなかった。まあ、淡々とした描写の中にそれなりの表情を捉えてはいたけれど、なんかもう完全にお前バカだろ、と監督に言いたくなってくる。とてつも長く感じた90分である。そう、90分、今時90分なんていったら短い映画だよ、で、終盤までただひたすらリチオとアケミとこのみの表情が短い台詞のやりとりを挟みながら映されるんだが、もう退屈でしかたない。で、唐突な印象を抱いてしまう原作をなぞる終盤の展開との乖離具合といったら、そりゃもうはっきり言って監督には漫画を読み解く力全然ない・監督より読解力のない漫画読者はいないんじゃないかってくらいのつながりのなさなのである。もちろん20数頁の短編を長い物語にするんだから、脚色されることはわかっていたが、こんなのだったらはじめから短編映画にしとけばよかったのに。で、監督が選んだ脚色の仕方が、原作に至る物語を作ることだったんだけど、この部分・ながーいプロローグが終盤の原作どおりのシーン・台詞よりもはるかに劣っている、これが乖離なわけなんだが、演出意図というか、こういうことを伝えたいんだなってことはわかるよ、役者もその期待に応じていたと思う。だから出演者には気の毒としか言いようがないんだけど、緊迫感がないからどうにもなってないの。当然伏線もクソもない。アケミが事故で死んで葬式の次の場面でもう花束持ったこのみが映って原作に近付くんだけど、やっとここに来たよって感じで。もうつまんないのはわかったから、後は「ごみんに」を待ってたんだけど、なんかさ、花束投げようとする場所が砂浜なんだよ。ありえないでしょ。仮に投げたって波ですぐ戻って来るんだよ、原作は海沿いの道・岸壁みたいなところだから、投げて舞って海に落ちるってのが想像できるけど、映画版は浜風吹きまくるなかでどう投げようってんだよ、ふざけんなって感じで、でもまあ早く釣りのおっさん出てこいよ、あ、今車が後ろ通ったぞ、あの車におっさんが乗ってるのかな、と思ったら違った。撮影中にたまたま映った車か? そして何もしないで突っ立っているリチオ、投げない、……どうすんだよ……海岸道路を走る青い車、リチオとこのみ、後部座席には花束、……終わっちゃったよ、おい。「ごみんに」はどうした「ごみんに」は。というか、こんな重々しい雰囲気にしてどうすんだよ、そりゃ監督が原作をどう読み解こうが勝手だけどさ、原作を利用して自分の描きたいもん描くのはやめてくんないかな、自傷癖のあるリチオだなんて、原作からは想像できない設定を奥原とかいう人はやってんの。信じられない。このみも原作とは雰囲気変えているんだけど、それがために原作どおりの台詞が全然あってないわけ。駄目じゃん、台詞なぞれば原作好きは喜ぶと思ってんのかな。「苦しいよ、チクチクするんだ」という台詞に、よし来た! と喜んでしまったのは事実だが、残念ながら、このみはそんな台詞を言うような女の子として描写されてない。その前の「セックスしようよ」もさ、そういう積極さとは程遠い描写があるから、原作の人物描写をオリジナルの物語に全く生かしきれていないんだよ。このみはリチオにもう会わないほうがいいと言われてから(だから花束持ってたところは再会シーンでもあるんだけど、お前らもう会わないんじゃねーのかよ……何? 葬式で顔あわせてます? だったらそこで再会場面描けばいいじゃん、久しぶり、明日ちょっと付き合って、とか。お得意の雰囲気で演出しろよ)、同級生の男の子と付き合おうとするんだけど、積極的なのはこのみじゃなくて、その男の子の方なんだよ、また花束持って登場するにしても、そんな突拍子もないことをいきなりする人物として描かれているわけでもなく、むしろおとなしいという印象のほうが強い。姉の死で性格変わったのか……描写しろよ描写、せっかく宮崎あおいがいい表情してるんだから、生かせよ。場面をぶち切らないで、なんかで繋いでいけよ。まあリチオの描写は丁寧だったけど。なにせ自傷癖だから、わかりやすいよ、アケミの死で自分を傷つけられなくなった、これを他の人物にも応用すればいいのに。とりあえず今出来るのはさ、90分を70分くらいにして、で、冒頭でアケミの死を伝えて、アケミはいつ死ぬんだろう・どうして死んじゃったんだろうという緊張を観客に与えてから、クソ踏んだ話とかいれてもっと雰囲気を軽薄にし、それでもって淡々とやれば、まだ観れたかもしれないけど。ていうか、パンフで小林善美っていう音楽家に一応フォロー入ってるしほのめかす程度だけど駄目だしされてるじゃん、だめだこりゃ。
 ちなみに、パンフによしもとのイラストはなかった。これは正しい、この映画に関わるべきではない、だから漫画描いていただけませんか。