高い高井

 漫画原作映画ということでって最近こればっかだな……
 ハイ、ジョージ朝倉原作「恋文日和
「あたしをしらないキミへ」 監督・脚本 大森美香  主演 村川絵梨 弓削智久
「雪に咲く花」 監督 須賀大観  脚本 佐藤善木  主演 田中圭 小松彩夏
イカルスの恋人たち」 監督 永田琴恵  脚本 松田裕子  主演 塚本高史 富山奈央 玉山鉄二
「便せん日和」 監督 高成麻畝子  脚本 岡本貴也  主演 中越典子 大倉孝二
 撮影 福本淳  音楽 小西香葉  主題歌 wyolica

 とりあえず、ここ読んでる方々で映画を観ようかどうか迷っているのなら、さっさと観に行け! 地元じゃやってない? じゃあやってるとこまで行け! 私はそうしたんだ!、交通費洒落になってねーよ! 
 いやー、予想以上に面白くて驚いた。もちろん、何故この場面を映像化しないんだという不満とか、いくらかわくたってその演技まずいだろ、と言いたい所は後に述べるとして、いや真面目に良かった、正直感動した。
 映画の構成は映画版のオリジナルストーリーとなる「便せん日和」を中軸に、原作の3挿話が独立した物語として描かれるオムニバス物であるが、4作品に関わったスタッフが重複しているために、競作というよりも連作というに相応しい原作の雰囲気を殺さない作品に仕上がっていると思う。もっとも、漫画のような過激な場面はかなり緩やかな表現になっているので、原作の純愛とバカが同居した味わいはちょっとない・というかかなりない。その辺にがっかりする原作ファンもいるかも知れないし、ちょいと感傷的な演出や音楽に興醒めする向きもあるかもしれないけれど、私は本作を大いに支持したい。村川絵梨がかわいいとか、富山奈央が初演技と思えない中国語訛りの日本語で魅力的だったとかそういう問題ではなく、いやそういう問題もあるんだけど、やはり原作の力が偉大だと改めて認識し、原作の面白さを損なわずに・映像としてまた新たな味わいを持つことが出来た「恋文日和」という作品の良さを再確認した。
「あたしをしらないキミへ」
 かなり原作に忠実。台詞はそのまんま。原作と違う点は流れ星じゃなくてネッシー? 別に原作どおりでもいいと思うんだが……なんで? いやしかし、原作は稚拙だな……ごめん、ファンのみなさん。だって映画のほうが良かったんだもん。原作をなぞりながらも映画のほうが良かったってのも変かな。劇中での手紙の文面は普通に想像できるように出演者が朗読するわけなんだが、これがいい雰囲気なんだよ。主演の二人の魅力もさることながら、朗読を聞きながら描写される二人の動きに引き込まれるんだよな。次の展開はわかっているんだけど、昼の放送で勝手に曲流したとこで、なんか胸が少し詰まって、一気に感動メーターが疼き始めたんである。原作だと読者が読まなきゃいけない文面が、読まずとも聞かされることによって、手紙を通じて惹かれあっていく二人の様子がほっといても頭の中に入ってくるのが気持ちいいんである、まあ半分は村川絵梨の魅力なんだが。で、これはもちろん原作の効能・つまり主人公の文子が変わっていく様子は具体的に描写される一方で、常に不良ぶっている増村だけど、文子の見えないところで文子に惹かれて行くのがわかってくるという味が映像化されても生きていたからだ。「なんて純情なんだろう」、台詞になるとまたいいな。いやしかしジョージ朝倉のすごさだよ。脚本は監督が担当してるけど、脚本は朝倉にしても全然問題ないぞ。それくらい原作の台詞・言葉は映像化されることによって躍動してくる。朝倉、あんた脚本書きなよ。しかし、屋上から舞ってくる紙飛行機はもっと盛大に映像化してほしかったな、しょぼいよ。
イカルスの恋人たち」
 脚色されてるけど、やはり原作まんまと言っても良かろう。ユーインを演じた富山奈央の口調の中国人ぽさは最初本物かと思った。演技指導の賜物かな。映画のほうは兄の描写を結構割き、弟の感情の動きを中心にすることで、弟のラストの悲しさを「東京タワー」で際立たせている。と同時に兄の描写が減ったことで、ユーインとの関係性があまり強く出て来ないから、恋人を失った彼女の悲しみがちょっと薄いような気がした、しかも演じた富山奈央、なまじっか歌が上手いせいか、ビデオ見ながら(ここはよくぞアカペラにした、音楽を廃し、彼女の歌声だけによくぞしてくれた!)歌う場面に素人ぽさが欠けているのが残念、まあいい場面ではあるんだけど。原作よりよかったのはやはりビデオレターのラストだろう。画面の中の康一にキスをするユーイン、途切れて砂嵐になってもしばらくそのまま、ザーッていうその音が、二人の最初の出会いである雨の日のザーッと重なって、ビデオが終わると画面が青くなって、言葉がなくとも伝わってくる感情があって、語彙に乏しくて申し訳ないがあぁいーなーと見惚れてしまった。
「便せん日和」
 原作にはない挿話。各挿話の合間合間に入る物語で全体を象徴する一編である。これはもうとにかく大倉孝二の魅力に尽きるよ。舞台は手紙屋というか便箋専門店で、そこに毎週金曜の決まった時間に来る女性客に店の主任である彼が惚れてて、その時間帯になると彼女に接近すべくそそくさと棚を整理するんだけど、これがいい表情なんだよな。主人公はその主任にベタ惚れしているけど何もできない(告白の手紙を出したいけど出せない)店員なんだけど、主任のほうが見てて楽しい。でもまあ最後を締めくくるに相応しい話だった。
「雪に咲く花」
 なんでこれをラストにもってきたかっていうと、これが一番面白かったのではなく、一番良かったのは「あたしをしらないキミへ」で、これが4編の中でてんで駄目だったとまでは言わないけど、私には合わなかった。ていうか、その台詞は彼女のもんだろ! なんでお前が言うんだよ。脚色にもほどがあるぞ。で、まあ映画の内容は好き好きなんでもういいとして、もっとも懸念すべきは、この短編の監督が来年公開予定の「最終兵器彼女」も監督するという点である。東映という時点で駄作決定の感はあるが、本編を観ながらそりゃないだろというのは、手紙の文面を映してそこに朗読を重ねるという演出である。映像流せよ映像。他の3編にもそういう描写はあったけど、これはひどいだろ。漫画を映像化したらどうなるかというイメージが他の2編には感じられたけど、これはまんま……文面は別に読み取れなくてもいいでしょ、どうせ朗読するんだから文字の雰囲気を映していればいいでしょ。なのに何であんなしつこく映すの? 「最終兵器彼女」も手紙だか日記だかの場面が結構出てくるけど、もうなんか絶望的。主演の小松彩夏もなんかなー。演技経験の少ない村川や富山があれだけ魅力的な振る舞いを魅せているのに、彼女からはオーラが感じられなかった。多分かわいいんだろうけど、映画の中ではやせこけた安達ゆみにしか見えなかった。
 
 パンフには朝倉のインタビューがある。抜粋しない。観て買え。