テルミンと俳句の会

 「Little Birds」という映画を観た。渋谷と新宿で今やってて、先の土曜は渋谷のアップリンクファクトリーとかいう教室みたいな映画館で監督のトークイベントをねらって田舎から駆けつけた。映画の副題は「イラク 戦火の家族たち」。2003年3月から4月のイラク戦争とその後の人々の生活を追ったドキュメンタリーなのだ。監督は綿井健陽、「ニュースステーション」や「News23」でイラクリポートをしていたビデオ・ジャーナリストといえばわかる人もいるかな。興味のある人は観ておくれ。
 で、面白かったのが、上映後に行われたトークイベント。なんとまあ1時間半くらいもしゃべりまくってたよ。映画1本分だ。登壇したのは綿井監督と宮嶋茂樹氏(フリーカメラマン)に原田浩司氏(共同通信社の人。ペルー日本大使公邸人質事件のときにゲリラ側を取材した人。二人ともその界隈ではかなり有名らしいが、私は知らない)の三人。映画の話を絡めながら、今までの取材の話とか最近のメディアの話をしてた。思い出せるものをいくつか書き連ねてみよう。
 死体の話。映画では戦災のバクダッド市街とか病院の中とかが映されてて、死体も出てくる。子供の死に泣きじゃくる父親とか出てくるし、カメラに向かってこれが大量破壊兵器なのか、と叫んで死体を指差す人もいた。映画はいいけど、なんでテレビは駄目なんだろう。死体。別に見たいわけじゃないけど、なんでこういう自主規制が普通になったのか。スマトラ沖地震津波の取材に行った原田氏は現場の写真を撮って日本に送ったけど死体が写っているので没だったとか。十万人の死者だかんね、あたりは死体でいっぱいとか言う話だけど、駄目らしい。では死体を収容した袋はどうかと日本に送るもやはり没。とにかく死体に関わるものは駄目らしい。確かに朝っぱらから(新聞にしろテレビにしろ)死体なんか見たくないだろうけど、と宮嶋氏。いつ頃からこうなったのでしょうかという綿井監督の質問に二人は声を揃えて「御巣鷹かな」とは、520人もの犠牲者を出した日航機墜落事故のことだろうね。救助される少女の姿は新聞の一面にもなったし、覚えてる。原田氏は続けて「……あさだ会長かな」とかごにょごにょ言ってたけど聞き取れず。浅沼だったらあの刺殺事件だけど、なんだろうか。よーからん。
 取材費の話。現在バグダッドにいる日本のメディアはNHKだけだとか。戦地の取材はとにかく金がかかるらしい(でも残業代は出ないんだよなと愚痴る原田氏。フリーの綿井監督と宮嶋氏はへーそうなんだという顔)。通訳してもらう現地の人はもちろんだけど、護衛してもらうための金がバカ高い。先日亡くなったことが判明した斉藤さんが所属していたような民間の警備会社なんて一時間で1000ドルとか2000ドルとか要るらしい。そんな金なんてないから、現地の人と仲良くなって護衛を月数百ドルとかで頼むんだけど、彼らの機嫌を損ねると簡単に裏切られるから非常に気を遣うと宮嶋氏。NHKは相当の金を取材につぎ込んでいるようだ。
 言葉の話。これも自主規制がらみ。観客からの質問で、米軍の行為を「進攻」「侵攻」と申し合わせたかのような統一に違和感を感じたけど、現場ではどうなのよ、というもの。なんか圧力あったの? とか。別にないらしい。はっきり言うとこだわってないらしい。三人とも現場の人だから、デスク側が何考えてるかはわからないけど、現場はそんなこと気にしないとかなんとか。「進攻」だろうが「侵略」だろうがどっちでもいいじゃん、という感じだった。もちろん悩むこともあるという。彼らをテロリストと呼ぶかレジスタンスと呼ぶかで、取材する側の思想が知れるからだ。でも、自分たちのことをテロリストと言っているんだから、テロリストでいいんでないの、と原田氏、あんまりこだわっていないんだよ。自主規制は確かにあるけど、受け取る側もちょっと気にしすぎではないかなー、と私は思ったよ。
 2ちゃんねるの話。これは綿井監督がぽろっと言ってた。バグダッド陥落直後の市街地、喜ぶ市民はほとんど出て来ない様子を撮影してて、でも一方ではフセイン銅像を倒してわーわー歓喜している人々も撮影している。けど、2ちゃんねるのどっかで、喜ぶ市民は誰もいないと受け取られたらしい。いやちょっと違うんだよ、ということ。映画でも米軍に罵声を浴びせる人とか、病院に行って死体を見てこいとか、いろいろ言われて(監督も昂揚して詰問する場面が映画にあった)戸惑う兵士の姿もある。でも、やはり喜んでいる人もいるようだ。というのもこれは開戦直前にバグダッド入りした原田氏が、盗聴に恐れる市民に遭遇しているから。タクシーに乗ったら、本当のことを知りたいかと言われ暗闇に連れ込まれてフセイン政権の不満を聞かされたらしい。
 自衛隊の話。サマワで何やってんの? という質問に宮嶋氏が主に応えていた。細かいことは忘れたが、ひとつの軍隊が一年近くも銃弾を撃っていないのは奇跡に近いとか。金の話も出た。金には相当困ってるんだろうな。
 まあ理屈は置いといて、「Little Birds」もトークイベント以上に良かった。機会があれば見てくらはい。これがイラク戦争の実態だ、とかそんなんじゃなくて、テレビのようなBGMのない生の音・生の声を聞けるよ。あー面白かった。