面白かったマンガ 2005

 今年も面白いマンガにたくさん出会えた。いやー、大変だね、読むだけでも。なんか部屋の中の惨状が……というのはどうでもよくて、年末の個人的なお楽しみが、今年のマイベスト作品の選出である。これはどうなんですかね、私は未知のマンガとの遭遇をこういう企画に期待している面が強いんで、ベストに挙げる作品も、長期連載作品は避けてしまう傾向が強いんだけど、個人サイトのマイベストなんかだと、そういうの関係なく今年楽しめた作品・もっと突っ込んで言えば、今年も楽しめた作品に傾きがちではないかな、という不満みたいなものがないではない。そういうことで、「このマンガがすごい! オトコ版・オンナ版」にはとてもがっかりしてしまった。ランキングとしての価値を高めようとするあまりに、選者一人ひとりの選評が薄い内容で、あれでは言いたい事も言えないだろうし、本として力が入っているのが作者のインタビューというのも、企画物としては失敗だなと、いや売り上げは知らないけど、作者が入り込んでくる時点で、読者のための本って形にはなってないような気がしないでもない。こういうのって読者が好き勝手言っているのが面白いんだけどね。そういう点で「このマンガを読め! 2006」のほうが読者のためのマンガガイドブックという面が強く、選者個人個人の選評にも紙幅を割き、ランキングはおまけ程度という姿勢に共感してしまう。
 というわけで、結局毎年同様当サイトも勝手にやっていくわけなんだが、まあざっとマイベスト10作品を列挙してみた。順位は特にない。

緑川ゆき夏目友人帳
 緑川作品は出る度に絶賛しまくってるので端から見れば贔屓の引き倒しっぽい感があるんだが、でもまあ、安定して感動を供給できる演出力が素直に嬉しい。とにかく丁寧な物語で、作者の集大成っていうのもあって、ファンにとっても最高の一品なんだけど、緑川マンガで最初にこれを読んだ人は、それはそれで幸運なんだよね。いきなり上手いものが食えるわけだから。それを思うと「あかく咲く声」の真面目だけどちょっと頼りない頃が懐かしいな。基本的にこの作者の物語にはミステリ要素があるから、それが物語を切り回す上での強みになっている。続刊も安心して期待できる。
 感想はこちらhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/natumeyuuzintyou.html

こうの史代「長い道」
 こうの氏は「夕凪の街 桜の国」だけではなかったんだね。どえらい作家さんが潜んでいたもんだ。マンガって素晴らしいね。押しかけ女房物っぽいけど、随所に見せるボケの皮をかぶった凶器に慄いてしまうし、同時におかしくもあり、このバランス感覚が超人的だ。わずかなページ数でそれを次々と畳み掛けてくるんだから、もう恐れ入るしかない。藤子Fの短編と読後感が似ているのが不思議だけど、それだけ構成力が半端なく上手いんだろうな。

安永知澄「やさしいからだ」
 昨年に続いて。連載作品の場合は余程のことがない限り採り上げないんだけど、余程のことがあったので、今年もこの作品を選ぶ。いやー、あれだけつっけんどんなマンガ描いといて、きっちり読者というか私だけどを引っ張り揺さぶるんだから、私は相当惚れ込んでいるね、この作品に。
 各巻の感想はこちら 1巻http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yasashiikarada.html 2巻http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yasashiikarada-2.html 3巻http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/yasashiikarada-3.html

 さて、昨年と変わらないような気がしないでもないのは気のせいだろうと言いたいが、これって作者でマンガを買った結果なんだよな。新規開拓ってほんと難しい。新しい作者の新しい作品を読みたいっていう勝手な要望を満たしてくれたのが以下の3作品。

岩本ナオ「スケルトン イン ザ クローゼット」
 短編集。表題作はもちろん、他の短編も含めてとにかく愛しい一冊だ。人へのやさしさが感じられて、読んでてニコニコしてくる。世の中には、ある作品に対して「善人しか出てこない」みたいな言い方で作品にケチをつける人もいるが、いやほとんどの人って他人に気を遣って、他人に思い悩んで、他人に頼って生きているもんなんだよ。そういうのを大事にして、これからも作品を描き続けてほしいね。表題作にしたって、一人の人物がさまざまな角度・さまざまな他人から見られることで、人間像を結んでいくことを描いているし、今晩食べるものを言ってみるだけで温かくなれる感情に私は感動したな。感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/skeleton-in-the-closet.html

豊田徹也「アンダーカレント」
 映画みたいとそちこちで評されているわりに、どの辺が映画みたいなのかは今一はっきりしないけど、感覚的に映画のような印象・余韻があるのは間違いないんだ、という作品。既存の漫画家の影響についての言及はプロに任せといて、一読者としては、物語の登場人物たちの些細な言動・表情にも注意を向けさせる作画と演出にひとまず感嘆しよう。感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/undercurrent.html

衿沢世衣子「おかえりピアニカ」
 短編集。痛快だった。作品別感想では「夏坂」を挙げたけど、「明日の空に」も大好きな一品。また改めて語りたい作品たちだ。感想は「夏坂」http://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/natuzaka.html

 他にもあるんだが、とりあえずこの辺。今年の終盤に読んだのでその分印象が大きかったっていうのもあるんだけど。でも「アンダーカレント」はところ構わず激賞したい作品だよな。続いては。

花沢健吾ルサンチマン
 理想だの現実だのを言い出す輩に不信感を抱いていた私にとって、「現実を直視しろ、俺たちにはもう仮想現実しかないんだ」という直球の言葉にしびれた。この言葉を残せただけでも、この作品には価値がある。中盤から終盤直前の主人公と月子とのやりとりはやや蛇足の感が否めないけど、仮想現実の世界を描きながらもラストまで現実を直視し続けた物語に、哀しさと同時に希望も見せる手腕を感じた。現在連載中の作品で、作者の手腕の真価が問われよう。

石川雅之もやしもん
 石川雅之は真面目さとおかしみの両面を内包した人物を描ける作家である。その最たるものが菌のキャラ化だろう。菌についての薀蓄がある一方で、彼らの繰り広げる世界が微笑ましくもある。そして、臭いの視覚化という点でも、今後どのような展開を見せるのか見逃せない連載作品だ。来年も存分にかもせ。

吾妻ひでお失踪日記
 実録物だろうが虚構だろうが、面白いものは面白い。仮に事実だとしても、それを事実のまま膳に出さず、自分流の調理法でさくっと軽いものに仕上げてしまう娯楽性に恐れ入った。と言っても、吾妻ひでおについては深く知らないというか全然知らなかったんだけど。感想はこれhttp://www.h2.dion.ne.jp/~hkm_yawa/kansou/shissounikki.html

 10作品目は決めかねるので、面白かったもの・楽しんだものをざっと列挙していく。
 荻上の投入で作品の方向転換を図り見事に成功しつつある・木尾士目げんしけん」、野球って楽しんだよなとしみじみしつつシンカーと言えばやっぱり落ちるシンカーだろうと不満もないわけではない・ひぐちアサおおきく振りかぶって」、飄々としながらも毎回完成度の高さで短編力を見せ付ける・小田扉団地ともお」、読者ってホントにわがままだよなぁと思い知った・えすのサカエ花子と寓話のテラー」、結末はわかっているのに正直かなり感動してしまった比古地朔弥ライジングガール!」、きりがないし、また考え直せばまた新たなベスト作品が思い浮かびそうなのでとりあえず、こんな感じで。

 それではみなさん、全漫画家に最敬礼!
 今年もまた面白いマンガをたくさん読むことが出来ました、ありがとうございました!