2010年個人的に面白かったマンガ

2010年個人的に面白かったマンガ

諫山創進撃の巨人
 2010年はこの一作に限る。物語上の伏線、世界観の考察、構図やコマの解析、キャラクターの分析、どれをとっても最高に面白いネタが「進撃の巨人」には詰まっている。いずれこれらのネタは物語が進むにつれて明らかになっていくだろう。しかし、明らかになった時点で考察してみたところで、所詮は後出しジャンケンのような気がしてならない。今しかない、今この作品を押さずしていつ押すのだ! まだ早すぎるという方、来年の今頃では遅すぎるのである。まずは春ごろに出るらしい4巻に瞠目すべし。

ヤマシタトモコ「HER」
 ヤマシタトモコはこれまでBL物を少し読んだ程度で、数あるBL作家の一人という認識しかなかった。それが、「BUTTER!!!」を掲載誌でちらっと読んでみると、絵の躍動感と旋律にたちまち惹かれてしまった。スピード感あふれるダンスシーンの余韻覚めやらぬうちに他のはどんなのだろうと読んでみたのが「HER」「ドントクライ、ガール」の二冊だった。これは私にとって幸運だったろう。フェニミズム漂う女性観を突きつけられる連作と、ギャグ設定を貫き通した乙女エンド、両極端なようでいて、いやむしろどっちも混ざったのが作者の本領なのかもしれない。前置きをスパっと省いた構成力は物語とあわせて痛快ですらある。

あずまきよひこよつばと!
 参りました。10巻だけでもベスト作品に挙げる。ここまでに至る道のりを踏まえてのことだけど、よつばの視点がこれでもかと強調されていく構図とそれを可能にした緻密な作画は、マンガを語る愉楽に満ちている。少しずつ成長していくよつばも逃さず画面に捉える物語に毎回うなってしまう。よつばは10巻も無敵だ。

今井哲也ハックス!
 文化祭には思い出がない。盛り上がって青春を謳歌しようと騒ぎまわるクラスメイトたちに冷ややかな視線を送っていたのが私である。今思えば意味がわからないけれども、自意識を保つための精一杯の抗いだったのかもしれないが、何年も過ぎてから真っ先に脳裏をよぎるのは「後悔」でしかない。いつまでもそれを認めたくない自分を、「ハックス!」は正面から描いてくれた。ああ、私がいる、三山、お前のことだ。

上野顕太郎さよならもいわずに
 人の死は、それだけで物語となってしまう。それが安直な設定と思わせてしまうゆえんなのだけれども、だからというわけなのか、昨今はやたらと実話であることを強調する物語が多いと感じている。確かに物語で主要なキャラクターが退場するというのは衝撃的だし、それが死であるならなおさらである。だがそこに、これは事実ですとか、事実を基にしているという注釈を加わることで、物語の都合でキャラクターを殺したというひねくれた考え方が封殺されてしまう嫌らしさを感じなくもない。だが、「さよならもいわずに」は、死によってもたらされる主人公の執拗なまでの本音が、マンガの表現を駆使し、単行本の装丁にまでそれは及び、親しいものの死という現実を読者に実感させようと企んでくる。俺の哀しみをお前も知れ! というような迫力に圧倒されるのだ。

佐藤ざくり「おバカちゃん、恋語りき」
 少女の初恋をどのように回収して決着を付けるのか。たとえ裏があった恋だとしても、初恋に変わりはない。全体的にコメディ色の強い設定とストーリー展開の中にあって、ただしかし少女漫画としての格は失ってはいなかった。初恋よ、ありがとう、そしてさようなら。ラストはきれいにまとまったとともに、キャラクターの挙動にニヤニヤしっぱなしの面白い作品だった。

中村尚儁「1/11」
 サッカー漫画のリアリティを何処に置くのかという問題は解決されることのない命題のような気がしないでもないが、この作品はサッカーに携わる一人ひとりの人物に焦点を絞ることで、サッカー漫画のリアリティの可能性を引き出そうとしているように感じる。サッカーに対する情熱が燃え上がる少年の体験は現実離れしているかもしれないが、彼のサッカーに対する抑えがたい感情は真実である。

 他に、香魚子「隣の彼方」。ジャイキリと女の子の食卓は毎年挙げるが、今年も高値安定。夏目友人帳もそうだったけど連載長期化で私の中では少しテンションが落ち気味。
 というわけで、少し遅くなったけど、全漫画家に最敬礼! 2010年もたくさんの面白い漫画、本当にありがとうございました! 今年もよろしくお願いします!