「響け!ユーフォニアム」11話 部員の選択、滝の選択

響け!ユーフォニアム」11話 部員の選択、滝の選択
 高校生の吹奏楽部を一年生の久美子の視点から描く「響け!ユーフォニアム」が毎回面白い。
 11話はオーデションシーンが素晴らしかった。鳥肌が立つ演出とはあのシーンのことだろう。ていうか、このアニメには毎回鳥肌立ちまくりシーンがあるんで、ニコニコで配信されるたびに何回もリピート視聴するんだが、今回は少し気になっていた滝先生の指導が明瞭に描かれた気がした。
 父親が高名な音楽家であることが明らかになり、演奏の上手さが執拗に演出される高坂も好きだという彼を、どこか違和を感じつつも、優れた指導者として見ているわけだが、10話の毛布を一時的に回収した件に激怒したシーンにより、あっ、こいつちょっと危ないかもしれない、という印象を抱いた。そこまで怒ることだろうか? と。むしろ暑さに熱中症などの体調を心配すべきではないか。キャラクターたちも暑い暑いと連呼しているし。もちろん個人の感想に過ぎないのだけれども、最初の全国を目指すという挙手のやり方にしても、生徒に自主的な判断をさせているように見せかけているだけで、その実、生徒の自主性をねじ伏せるような言動の一部が垣間見られたように思う。これは、高坂の特別になりたいという強い意志が、久美子の意味深なナレーションで足元を掬われるかもしれない予感を漂わせる。
「その時はまだわかっていなかったのかもしれない。強くあろうとすること、特別であろうとすることが、どれだけ大変かということを」
 高坂の意志を指しての久美子の言葉だけれども、滝に向けられているような気がしないでもない。もっとも、彼の「全国大会に行く」という強い意志の理由は物語が進むにつれて明らかになるだろうし、高坂と滝というキャラクターの対象性から、滝もかつて高坂と同じ意志を持ちながら挫折しただろう過去を想起させる。高坂がアドバンテージを持っているとしたら、断然、主人公の久美子と親密な関係であるということであり、滝にはベテランの松本先生が副顧問として支えてくれるだろう。
 今回の中世古と吉川の関係もそうだが、どのキャラクターにも支えとなる存在があり、孤立させないように配置されている。このような場合、当然、孤立したキャラクターが危機に陥る展開があるだろう。夏紀しかり、11話の塚本も孤立しつつある。久美子がそこを救えるのか、葉月が再度立候補するのかは定かでないが、塚本が危機なのは間違いない(部長の小笠原も葵が去って孤立気味になりかけたけど、中世古が寄り添ってくれて良かったよなぁ)。
 塚本を危機に追い込んだのも滝だった。苦手な箇所の演奏を克服するよう先週にも言われていた塚本は、全体演奏のあと、みなのいるところでその拙さを指摘される。明日までにどうにかしてもと言われても、どうしようもないだろう。塚本自身が自覚していることを衆人前でいわれるのはさぞかし屈辱だったに違いない。かつて葵に対して「いつまでに出来るのか」と詰問し、結果的に退部するに至った経緯も思い起こすと、滝にしろ高坂にしろ、下手なほうに問題があるという真っ直ぐな感情があるのだろうし、敗れる者・去っていく者に対する配慮が足りないキャラクターなのだから一貫性があるけれども、自分にも他人にも厳しい面を含めて、「大変」な展開が待っているに違いない。
 さてでは、オーデションシーンを詳細に見ていく前に各キャラクターの立場を確認したい。
 高坂は最初のオーデションでトランペットのソロに滝先生から選任された。中世古もソロを目指していたが、高坂に敗れたことになる。だが、中世古を強く慕う吉川が滝と高坂が知り合いであることを暴露したため、選考結果に疑惑が生じた。滝は松本副顧問の助言もあってか、再オーデションを決定した。主人公の久美子は、高坂の音楽への強い想いを知っているし、彼女を後押しする決意を高坂本人に表明した。一方の中世古は、吉川や部長の小笠原の後押しを受けた。副部長の田中は態度を保留のまま。久美子と高坂の関係を知るクライメイトで同じ部の葉月と緑輝は二人を見守る感じだ。では、シーンを見ていこう。
・中世古の演奏
 各カットを順に追っていく。
 指先の迷いと口元の震えのアップ。最初の一音から音の奥行きの程度がカメラの動きで描写。手前からぐっと奥へ引いたカメラは、部員全員に聞こえる広がりを感じさせた。

 目を閉じて聞く部員たちの横顔、頷く小笠原、田中の横顔のアップ。祈る吉川。部員たちの後ろで立って聞く滝は腕組みをして目を閉じている。
 カメラの動きは、手前から奥へ、右から左、下から上、左上から右下(あるいは奥から手前)、左下から右上、そして下から煽るように中世古を捉える・開いていた目を閉じて演奏を終える。最後にまた手前から奥、目を開いて中世古「ありがとうございました」と頭を下げる。中世古のアップに応じる一人の拍手からまばらに拍手、顔を見合わせ拍手する男子部員、吉川の小気味よい拍手、笑顔の小笠原や真剣な表情の田中の二人は中世古を凝視する。ふうっと息を吐く中世古のアップ。
・高坂の演奏
 迷いなく息を吸い込んで最初の一音を奏でる。漏れた息が高坂の髪の毛をふわっと巻き上げると、カメラは一気に手前から奥に引く。音の広がりがホール全体に及んだことが演出によって強調された。

 これまでも彼女の演奏は空に響き渡る演出が施されていたが、その響きの強さが確認された。目を閉じて聞く多くの部員たちが、はっとして目を開いていく。滝は目を閉じたまま。続けて葉月・緑輝・久美子のアップ、はっと漏れる息が聞こえてくる、葉月は目を閉じたままだ。吉川を中心に多くの部員が目を開いて聞く、口をちょっと開いている者も。さらに泣きそうになる吉川のアップ。明らかに高坂の上手さを悟った表情と演出だ。小笠原と田中の正面の表情が高坂を瞠目する、そして田中のアップ。
 カメラの動きは、手前から奥へ一気に、キャラクターによった所で下から上へ、再び下から上へ行くも滝の顔が正面に来たところで一瞬止まる、右下から左上、右から左へ、左から右へ、そして高坂を煽るように下から上に。高坂は目を閉じていた、演奏終了と同時に目を開く高坂、中世古よりは浅い角度で「ありがとうございました」と頭を下げる。奥に引いたカメラが部員全体をロングで捉えた。中世古の時は顔を見合わせた男子部員は、じっと正面を向いたまま。滝の後頭部のアップ「では、これより、ソロを決定したいと思います」と表情を描かないことで、彼がどちらを優れていると感じたのかは、うかがい知れないままである。
 キャラクターの表情から優劣も結果も明らかである。高坂の圧倒的な音がカメラの動きすらも制御した。中世古の聴衆がさまざまな角度から描写されながら、高坂の聴衆は、前からの音の圧迫を受けているかのように威圧されている風に動く。また目を閉じたままの滝と葉月。滝を捉えたカメラは中世古の時には奥から手前に行くような余裕があるが、高坂の時には下から上に移動して顔を正面に捉えたところで一瞬止まる。ここで目を見開くかと思ったが、そこまでわかりやすい演出ではなかった。彼が何を考えているのかはわからないが、カメラが一瞬止まったことが、彼をして高坂の演奏に聞き入った証左だろう。葉月は単に音の違いがわからない素人として描写されている。
 ソロを決める多数決となるはずの拍手は、結果的に2対2だった。吉川と久美子は、互いに支持する相手に立って拍手をするものの、他の部員は態度を鮮明にしない。部長の小笠原は中世古に、葉月は思い出したように久美子に釣られる形で高坂に拍手をした。演出やキャラクターの表情から、どちらが優れた演奏だったかは明らかである。

 では、最初に拍手したのは誰か。吉川ではなかった。スカーフの色から一年生であることが知れる。毛布を片付けたときに滝に注意されたカマヤという生徒だろうか。いずれにせよ、彼女は吉川と同等に中世古を慕っていたか・滝に対して反発している生徒だろう。それが多数決では拍手できなかったのだ。そして、拍手をするまでもなく、結果は明らかだった。
 だが、滝は答えを知った上で、中世古に「あなたがソロを吹きますか」と質問する。残酷だな、と思う。葵や塚本に対する態度のように、滝はここでも容赦ない。仮に多数決で決定していたとしても、彼は似たような質問を中世古にしたのではないだろうか、と思うほどだった。と同時に、この時滝に振り返った生徒が高坂のほうが上手いと感じていただろうことは察しが付こう。ほんの一瞬のカットだが、小笠原が振り向き、田中が正面を向いたままというのが、二人のキャラクターの違いを描写している。
 中世古自身がその実力の差を一番理解しているからこそ出来る質問だし、本編で彼女の優しさ・気遣いは存分に描かれているからこそ出来る残酷さでもある。この程度で彼女はふてくされることはない、滝も彼女の力を認めているのだろう。
 だが、やはり何度見ても、自らを納得させて降ろさせる、というには確かに効果的ではあるが、十代の子どもに負わせるには、あまりにも重い責任のようにも感じる。
 ほんの短い中にも多くのキャラクターの感情と物語がたくさん詰まっている。各シーンの素晴らしさもさることながら、物語も最高に面白いアニメである。次の曲が楽しみだ!!

 ※ソロパート決定後の小笠原(左)と田中。