探そう! 「手塚治虫=ストーリーマンガの起源」突っこみ十選

 なんか宮本大人氏のブログからアクセスが殺到してて地雷でも踏んじまったのかと思ってたら、竹内一郎氏の手塚なんちゃらが何かの賞を取ったんだね。他の真っ当なレビューのみならず、私の拙文にもリンクしちゃうくらいだから、よっぽど腹立たしいことなのか。立場上、あんま罵詈雑言書けないんだろうな。
 なんでまあ別に代言するつもりじゃないけど、手塚なんちゃらの本がどんな本なのか、前の感想と重なるところがあるけど、また書いてみよう。
 と言ってもだらだら書くこともなく、一言で済みそうな話だけど。すげーわかりやすく言えば、手塚治虫が「「火の鳥」はギャグマンガなんです」と言えば、竹内一郎氏にとって「火の鳥」はギャグマンガになるんですよ。だから、「火の鳥」を感動したとかヒューマニズム溢れるナントカカントカとかロマンだとかリアルで感じていたはずの情動も全て彼は否定して、ギャグとして読まない読者はバカ、とのたまってしまうんである。何故なら手塚がそういっているから。本の論調は全てそんな感じなんである。大げさではなくてね、本当にそんな感じだから、持論は手塚治虫によって支持されている風な錯覚をきたしてしまう読者だっているかもしれない。逆なんだけどね、手塚がそう語っているから持論も手塚の発言に沿う。審査員の人も、よくぞこれだけ手塚の生の言葉を集めたもんだと感心してるんじゃないか……、いやあれ、ふつーに本屋で買いまっせ、手塚全集に載ってるもん。全集に手塚の発言・インタビュー・エッセイなどがまとめられる以前に出された手塚関連本の資料収集に費やした努力に比するものなんて竹内一郎氏の本には微塵もないんだよ。
 先行研究を踏まえていないっていう視点からも存分に批判できるんだろうが、漫画評論どころか漫画そのものに疎い人が読んだって気付くものだよ、この本の立脚点が非常にもろいものだって。それに気付かなかった審査員の方々は相当耄碌してる。
 ほら、「あるある大辞典」の科学的検証のお粗末さってのがあるじゃない。比較実験とか大事なんでしょ。これを一週間食べ続けたら痩せましたって。本当にそれが要因なのか検証するには、既に確定している事実と比較しなきゃならない、みたいな。竹内氏の本はこれさえしないんだよ。なんかね、竹内オサム氏が同じ竹内で気の毒にすら思える。竹内オサム氏の本についてもいつだったか激しく貶してしまったけど(ごめんなさい)、ちゃんと比較してるんだよな。初期の手塚作品がどんだけ優れていたかあるいは映画的だったかのかを同時期の他の作家の漫画と比較するのはもちろん、戦前の作品や後年の作品とも比べて、ちゃんと精査した上で「同一化技法」っていう言葉を固めてきた。竹内一郎氏も手塚作品の映画的手法の例を挙げているんだが、ただ列挙しているだけなんだよ。他の作家も映画的手法を使ってたかもしれないんだけど、ほんの数例挙げるだけで比較の材料にならん。で、手塚の発言をところどころ引用して、手塚も言ってるからこの理屈は正しい、といった感じになる。秋田孝宏「コマ」から「フィルム」へ」では、「ドカベン」の漫画がいかにしてアニメというメディアに乗っかったかを実例を引用して考察しているけど、竹内一郎氏の本には映画っていうメディアが漫画にどう移植されてきたのか変換されてきたのかっていう説明がない、あるとすれば手塚の言葉を引用するだけなんだ。たとえばさ、手塚自身がアニメ化した作品を例にこの場面はこうアニメ化されていますみたいな、本人の漫画がどうアニメになったか・実例を見せるだけでも相当印象が変わるんだけどね、この人は手塚全集しか資料持ってないから出来ないんだ。だから、手塚なんちゃらって本は、手塚の言葉を全集から引用してまとめただけの本なんだよ、極端な言い方ではなくて、本当に。初期作品の一場面と当時かそれ以前に公開された映画の一場面を並べて手塚は映画をパクってやがるとかそんなことまでしなくてもいいけど、いやしたほうがいいか。それでもって手塚が実際に映画から影響を受けていた証左になるわけだし。でも本の中では映画から影響を受けたという手塚の言葉を引用しまくるだけ。え? それで終わり? 手塚が実際に挙げた映画を観ないの? 
 受賞の言葉を引用する。「手塚治虫が、先行の漫画家、映画、アニメ、アメリカン・コミック、新劇(宝塚)、立川文庫(講談、絵物語)などを、うわばみのように呑み込んで、日本独自の「ストーリーマンガ」を作ったことは、既に知られています。本人も語っていますし。」←まだ言ってるよこの人、バカじゃねーの。

手塚治虫=ストーリーマンガの起源」突っ込みいろいろ(みんなも図書館でこの本を借りて探してみよう!)
・「結局、筆で描いているうちは、純粋美術の挫折者が漫画で食べているという構図なのである。」一平や楽天の遺族・関係者はこいつ殴っていいぞ。あと安彦良和御大もこいつ殴れ。
・「手塚が、その後赤本を舞台に独自のマンガブームを作り上げるに至ったのは、彼の「負けず嫌い」の性格に負うところが大きい。」性格の問題かよ。
・「鉄腕アトムの二本の角は、ミッキー・マウスの大きな耳の変化形である。」手塚の寝癖説はどうした……
・「『映画監督術』が日本で発売されたのは、一九九六年のことである。それまでは、同書ほど懇切な映画技法の入門書は、日本になかった。」映画関係者の方々もこいつ絞めてくれ。
・「二〇代、三〇代で評価を得た小説家が、四〇代でこれほどまで作風を変えられるだろうか。私は手塚を、とてつもなく巨きな人だったのだな、と思う。」個人的な感想が評論って、ちょwwwwwおまwwwww
・「だが、劇作家の多くは物語が作れない。端的にいって右脳タイプなのである。」劇作家も怒れ。
・「ところが手塚は、左脳タイプの作家である。」もう血液型占いでもしてろよ。
・「「手塚治虫研究」といっても、そのほとんどは手塚の生前行われたものが多く、死後に現在の形の全集が編まれ、出版されてみると、手塚本人が語っているものがほとんどである。」当たり前じゃねーか、全集出版以前はみんな苦労して手塚関連の資料を集めたんだよ! ていうか、おめーの本がまさに手塚本人が語っているものだけで構成されていることに気付けよボケ。