映画「デスノート the Last name」感想

 映画「デスノート 前編」の続編たる本作品は、これをもって完結した。原作既読者にとっては予測の範囲内と思われる展開ではあったが、私は今回も「前編」同様に楽しませてもらった。演出や脚本は相変わらず拙いと言うか見るべきものが少ない、エキストラの小うるさい演技なんて見てられない有様ではあるが、小気味よいテンポによって次々繰り出されるライトとLの駆け引きは見応えがあった。原作にとらわれず最後まで舞台俳優然としてライトを演じ続けた藤原竜也、原作の造形に近づこうとする余りに時に滑稽ですらあったがそれもまた愛嬌になったLを演じた松山ケンイチ、両者ともに原作ファンのひとりからありがとうと言いたい。
 さて、以下はネタばれも構わずに書き散らかしていくので、映画鑑賞前の方々は早々に立ち退くのが無難かと思われる。



映画「デスノート the Last name」
監督:金子修介 脚本:大石哲也金子修介
音楽:川井憲次 撮影監督:高間賢治 照明:上保正一
美術:及川一 録音:岩倉雅之 編集:矢船陽介 撮影:石川稔
主演:藤原竜也 松山ケンイチ戸田恵梨香 片瀬那奈 上原さくら五大路子 満島ひかり 中村育二 青山草太 清水伸 奥田達士 小松みゆき/藤村俊二 鹿賀丈史

 「前編」のラストでキラ捜査本部に加わることがかなったライトは、Lに「キラではないか」という挑発を受けつつ、第二のキラ事件に遭遇する。さくらTVで放送される第二のキラから声明(ここはまた「前編」とは打って変わって、ちゃちな広場の街頭モニターだったな……全体的に作りがホントにしょぼい……)でリアルタイムにキラ批判の評論家が死ぬ映像で騒然、現場に急行した模木も心臓麻痺で急死、騒動を治めようとする警備員も次々と倒れ、事態は俄かに切迫する。そこに車で突っ込んでヘルメットを被った夜神総一郎が登場、放送を中断させた。だが、第二のキラの声明は「死神」発言などを含んだ想像できない代物だった。実際に殺人が行われた以上、本物には違いない。だが、その幼稚な内容とライトやLが断じるように、その手法は警察によってあっさりと瓦解しかけるのだが……
 繰り返すが、作りが侘しい。予算がないとか言う話じゃないだろう……「前編」のオーロラビジョンによる撮影の臨場感は一体どこへ。さくらTV前とおぼしき広場のエキストラはコントかよ……いや、まあよそう。そんな欠点は覚悟していた。問題は、物語がどう転がっていくかだ。「前編」では原作よりも非情なノートの使い方を見せたライト、原作とは異なる展開により、どのようにして原作の筋に戻るのかと注目していたが、まああっさりと、レムの登場から第二のキラ事件、ライトとミサ(戸田恵梨香)の対面とぽんぽんと展開していった。ライトが捜査に加わったことで、このあたりは予想できたことだろう。
 でもって大学に現れるL。わざわざ受験だなんていうまどろっこしい手続きを経ずに校内に侵入してライトと接触するあたり、原作の飄々とした様を損なっていない。顔が見られたらまずいだろうというライトの忠告をわかってか、ひょっとこの面を被って軽く場内の笑いも誘う。うーん、松山のアイデアかどうかともかく、松田(青山草太)の間抜け発言も併せ、原作の息の抜きどころはきっちりとわきまえているようだ。待ちきれずライトに会いに来てしまったミサに対するLの反応も原作を踏んでいる。全体的に原作をまとめた感がある展開はテンポの良さの反面で流れが速すぎると受け止められてしまうものの、こういう原作に沿った場面はかえって場の速度が落ち着く。脚本の出来というかバランスがいかに悪いかよくわかる。ここでLの本名を見るミサ、しかし、別れた直後にライトが掛けた携帯に出たのはLだった。警察によって確保され、キラ捜査のために監禁されることとなるミサを救うために(そして自分への疑いを晴らすため)、ライトは己の才能を秤にデスノートの所有権を捨てる勝負を挑んだ。
 ここも原作に倣う。ライトが監禁されるくだりはもう少しやり取りがあってもいいと思ったが、だってほとんどの出来事が性急なんだもの、おいおもう監禁かよ。さてしかし、ここからが原作を絡めたオリジナル展開に流れていく。原作第二部のキーマンの一人だった高田清美片瀬那奈)がさくらTVの一記者として登場し、彼女が第三のキラとして活動することになる。ヨツバグループは全部カット、ここらは潔いと言うよりも原作の無駄な話を切って捨てたのだろう。これによってヨツバの誰が第三のキラなのかという推理も省略、最初のキラと第三のキラの相違点を浮き彫りにしてから一気に容疑者として高田清美に接近する展開は圧巻であった。
 デスノートを再び手にしてよみがえる記憶の場面、ここが唯一原作を凌いだ演出だったろうな。まあここしかないってのが哀しいところだけど。みんなが死神レムの登場にびっくりして慌てふためいている傍らで時計に仕込んだ紙片で彼女の名前を血で記入、「計画通り」が来た。あー、しかしここは藤原のアップにならず。凶悪な表情をしているのに印象に残んないじゃないか。「前編」の撮影の高瀬比呂志氏を失ったのは大きい。なんかこう寄って欲しいところで寄らず、どうでもいいところで寄ったりして、せめて原作を熟読するなりしてほしかったところ。しゃべってる役者をただ撮ればいいってもんじゃないだろうに。
 Lを出し抜いたライトは、いよいよLを葬る計画を開始する。いやもう記憶がよみがえった時点ではなく、もっと前から、一時所有権を捨てる計画の段階からミサを追い込む状況を準備されていたわけだから、ライトのしたたかさは確かに恐ろしい。
 えーさて、まだ本編を見ずにこれ読んでいる人がひょっとしたらいるかもしれないので注意、ほんとのネタばれはここからだ。うん実際に予測できる範囲のトリックではあるが、たったひとつだけ違うんだ。ノートのルールに則った上で見せてくれた「前編」のどんでん返しが、本編でも見られるのである。






 予感はあった。Lはレムに名前を書かれて死ぬ。では、ここからどうやって結末が導かれるんだろう。第二部を仄めかしつつ幕切れか、それともさらなる結末があるのか……ライトの計画通りにことが運んでいる傍らで、Lは一体どんな仕掛けでこの危機を逆手にしてライトに報いるのだろうか。まったく予想が付かない。夜神総一郎らがLの提案によりデスノートの検証のためアメリカへ発ったその日、捜査室の中で二人っきりになったLとライト。原作でも映画でもLは言っていた、キラがノートに名前を書いた現場を押さえるしかない、でもそんなことは不可能。原作では第二部でニアがLの言葉を実現に至らしめたが、それが今回披露されるのだろうか。
 ミサが第二のキラ容疑として逃れられない状況になってレムが消える。原作ではいつの間にか消えていたレムだが、映画ではLが姿を消す様子をしっかり見ていた、知っている、Lは知っているんだ。自分の命を賭して? ミサを捜査本部に連れてきたワタリ(藤村俊二)が、室内に入る直前に倒れる。砂になって崩れていくレム、そして、劇的にイスから倒れ崩れるL。全てを知りつつ死をもってライトの計画に乗ったというのか。
 ミサが持ってきたデスノートを手にしてリュークとも再会したライトは早速ノートを広げて名前を書き込んでいく。レムのデスノートを持って出発していた父が本部に戻り、それをライトに渡して死ぬ。原作でも触れられなかった父の殺害が、今回目の前で展開されるのだ。ほんとに恐ろしい奴だよ、あんた。でもまあ、きっとこのノートは偽者なんだろう。Lの最後の罠にかかって、ライト劇場は幕を閉じるのだろう……
 死なない父を前に愕然とするライトは、松田たちに囲まれて、ミサも拘束され、言い逃れ出来ない状況に陥る。と、ここで、Lがひょっとこの面を被って登場するのである。死んでねー! レムが書いたノートも偽物…いやでもワタリは死んだし、レムは確かに砂になった。原作既読者に向けて突きつけるように、Lはデスノートに書かれた自分の名前をライトに見せつけた。ノートに一度書いたことは取り消せないし、先に書いたことが履行される。Lはルールを考慮した上で、レムがノートに名前を書く前に、自らノートに名前を書いたのである。23日後(デスノートの効く23日ルールを利用)に死ぬ、と。つまりレムはワタリの名前を書いたがために砂になってしまったのである(レムがLの名前しか書かなければ、Lが死なないってことでまた違う展開になったんだろうし、死神が消えてしまうことまでは知らなかったんだろうが)。
 もちろん、Lは20日後(追記・あれ?8日後だったっけ。これなら13日ルールも自ら検証していたことになるな)に死ぬんだが、それでも史上最悪の殺人兵器デスノートを消し去るために、彼はこれからも殺されるだろう人々の代わりを背負って、生きているうちにライト逮捕の大捕物の芝居を成し遂げたのである。
 で、後はデスノートのラスト同様に不様に喚き散らしてリュークに名前書かれてライト死亡。父に看取られながら死んでいくのが唯一つの救いである。

 さて、個人的に原作と比較しつつ楽しんで見られたわけだが、映画としてどうよと聞かれると、文中でも散見されるように、なんか駄目。終盤はそりゃもう引き込まれたけどね。捜査本部でのやり取りが中心となる後半は騒がしいエキストラも登場せず、じっくりと鑑賞できたけど。ただ映像はきれいだったな。いやまあしかし、なんだかんだ言って藤原竜也松山ケンイチの力に尽きるだろう。この二人のつばぜり合いだけでも面白かった。原作のように細かな心理描写が出来ないところを、二人の表情が存分に内面を語り合っていた。いやー、すごかった。こりゃ「前編」とあわせてまた観たいね。ほじくりかえせばいろいろと穴が見つかるけど、とにかく楽しめた後編だった。