映画「官能小説」感想

映画「官能小説」感想
 さて、漫画原作映画ということで、藤井みつる原作、坂牧良太監督・脚本「官能小説」。
 ええ、これ映画化されてたんですよ、ひっそりと。多分、すぐにソフト化されると思うけど、というのも、出来から言ってとても劇場で公開するに足るもんじゃないんだよね。安っぽい演出に稚拙な画面構成、演技ってレベルじゃねー出演者たち。けど、主人公の彩を演じた大久保麻梨子の魅力だけはよくわかった、アイドル映画なんだよね、これ。だから映画って箔を付けるためのアイドルファンご用達ドラマって感じなのかな。違ってたら、それはそれでいかんだろ、この出来。まあ、デシタル撮影だからというわけではないんだろうけど、絵自体が荒いし、こんなもんなのかね。
 で、原作で拍子抜けした方もいるだろうラストを映画では、1巻の1話目だけに焦点を当てた内容になっており、彩と椎野が結ばれるまでの、手堅い恋愛物になっている。だから映画オリジナルのラストを求めると、さらに拍子抜けするかも(まあ、私のことなんだが……)。それにつけてもアイドル映画であることを前提にしなきゃ、観てらんないかもしれん。いや、大久保はがんばってたよ。彩の無愛想な眼鏡小局をすまして演じてたよ。がんばってんたなー、ていうのがわかる程度だけど、かわいいから許す。ひどいのは武石を演じた浜田翔子だろう。ひどいというかリアルで殴りたいというか、棒読み云々じゃなくて(以下略)。
 1話だけの内容ということで、原作で登場した溝口とか小菅とか光成とか……全然出てこない。彩(大久保麻梨子)を巡る宮沢(谷口賢志)と椎野(北条隆博)、そして椎野を狙う武石(浜田翔子)、この四人が話をまわしていく。全体的に安っぽい(ほんとに安いんだよ……)けど、もう愚痴はいいや。もちろん原作それだけでは話が持たないので、映画独自の要素が盛り込まれる。これは、個人的に上手く山場に繋げていると思う。走らないで現場までタクシー捕まえて行けばればいいじゃん(原作も一応タクシーに途中まで乗ってるみたいだけど)、という突っ込みもしたいが、これは彩がかつてやらかした失敗と交錯させることで、彼女の、次こそは同じ失敗をしないという意地と椎野への恋情を感じることが出来た、そうそう話はいいんだよ、これ。気になるセリフや場面はやっぱりあるけど。
 過去の失敗は、原作では彩の「妙な期待したら傷付くって学んだばかりじゃないの」を元にしているのだろう。映画はより具体的に彼女の過去が描写させる。これによって、彼女が何故頑なに独りでいるのか、人との関わりを面倒に思うのか
、というものが浮かび上がってくる。簡単に言えば、同僚と不倫して、その彼が忘れた重要書類を見て見ぬ振りし(持っていれば、またすぐに彼が来るだろうという浅薄な思考である)、結果彼は仕事で失敗して会社を辞めてしまう。彼女に責任があるわけではないが、重要書類だと後に知って、それを抱えて彼の下へ駆ける姿が印象付けられる。
 さらに椎野の官能小説家としての態度である。原作では途中でルポ業みたいなことに移行して、ラストでまた小説家としての本分を取り戻すわけだが(ちなみに、原作ラストに近い・椎野が原稿に囲まれた室内で執筆をするというイメージした場面もあるので、1話だけとは言え、椎野の小説家根性のようなものは損なわれていない。とはいえ、社内でもノートパソコンで小説書いてるってどうよ……)。椎野の作品も彼の妄想として映像化されて(演じてるのも当然大久保と北条)、現実と混交する。前半で僕の小説の恋愛部分は妄想です、みたいなことを言うんだが、これが伏線になっている。ベタとは言え、これは王道として十分納得の結末に通じている。
 宮沢の賭けも原作にアレンジが加えられる。椎野も賭けに乗っていたのではないか、という疑惑である。疑惑というと大袈裟だけど、これもラストの伏線に組しかれており、話は結構まとまってるんだよな、せめて浜田が……カメラワークが……。
 彩が駆けつけるも椎野の仕事は先方の都合でキャンセルされた原作は、その後二人は関係に至るわけだが、映画では賭けへの疑惑によって彩の感情が一気に引いてしまう。ここで観てるほうもちょっと引くんだよな。まあ原作知っているいないに関係なく、ここで一呼吸置いたところで山場に疾走感が出るんだろう。原作最終話の雰囲気が、山場に盛り込まれている。執筆に没頭する椎野の彩への想いは小説になって完成した。人と関わるのはやはり疲れる面倒だと再認識する彩が、不意と入った本屋で見つけた椎野の最新作「官能小説」である。
 椎野と彩をモデルにした内容、彼の恋愛の妄想。彼の気持ちを知った彼女は、再び駆け出すのであった――過去の二度が仕事のため・彼のためだったのに対し、今度は自分のために彼女は泣き咽びながら走るのであった(だからタクシー使えよ)。
 ラストは眼鏡を外した大久保の笑顔である。お約束か、でもかわいいから許す。