クロマティ高校がほんとに映画化されていた件について

 さて、漫画原作映画というこで早速観て来た、魁!!クロマティ高校 ええ、本当に観て来たたんだよ、嘘じゃない。夕張国際ファンタスティック映画祭で上映されるって聞いたから、夕張まで行ったんだよ。映画化の話にまだ信じられないという方もいるだろうけど、本当に映画化されてた……冗談じゃなかったんだ……
 上映前に監督の山口雄大と脚本の増本庄一郎、主人公・神山を演じた須賀貴匡(酔っ払ってやがっぞ、こいつ)と山本一郎(原作同様ちょっとしか出番はない)役の坂口拓が登壇し、テレビ電話(光ブロードバンド通信とかいうらしい)で林田を演じた虎牙光揮阿藤快が登場した。映画化の企画は3年前から作者の許可を得ず勝手に進めていたというが、脚本がまとまらず、だいぶ試行錯誤したらしい。まあ舞台挨拶の詳しい内容はどうでもいいか、映画の感想を書いていく。公開まで待つという方は読まないほうがいいかな。いや、読んでもいいか。物語はむちゃくちゃだからね。
 
 
 そう、実際むちゃくちゃである。原作自体に一貫性がないいい加減な展開なので、それを劇映画としてまとめようだなんて一から無理がある。無理を承知で話をまとめるために、原作のネタを踏まえたうえでのオリジナルストーリーが劇の中軸として、最初から最後まで描かれることになる。いや、最後までじゃないか。このへんのいい加減さは原作の味わいを意識してのことかもしれない。
 冒頭でクロマティ高校の歴史がナレーションされる。かなりばかばかしいのは原作を踏んでいるためだろうが、ここでこの物語の定義づけか行われる。過去に震災とか空襲とか謎の爆発とかで破壊された校舎が、今回もまた破壊される、という説明である。つまりラストで利用されるネタが原作同様何の前触れもなくやってくる宇宙人襲来と隕石落下である(ネタばれも何もないと思う、原作読んでいれば容易に察しがつく展開だから)。大まかな流れは原作のネタを再現しつつ、神山の高校入学秘話からはじまる、前略おふくろ様というナレーションもあり、これは最後まで続けられる。入学後のパシリ生活、フレディ(渡辺裕之)・ゴリラ(着ぐるみ)・メカ沢(ハリボテ。「それはひょっとして……」の名台詞はない。メカ沢βはついでに出てくるといった感じ)の登場、前田の母も登場、竹之内(高山善廣。棒読み演技)のハイジャックネタも登場し、マスクド竹之内がここで登場する。マスクド竹之内の存在は演じる板尾創路の力の抜きっぶりも相まって、かなり異彩である(板尾氏自身は近年映画出演が目立っており、コント経験も長いわけで、監督の力ではないだろう)。映画用の物語と原作ネタとの絡め具合も、マスクド竹之内の部分は上手い。
 中盤あたりで北斗とその子分が登場し、地球防衛軍が創設される。ここから映画のオリジナル色が強くなる。あー、これが冒頭の「地球に向かってくる何か」と絡んでくるわけか、と予想がつく。会議は当然前田の家。終盤、ゴリ(声・小林清志)とラーの宇宙人が襲来、クロマティ高校が彼らに支配されてしまう。神山新隊長はひとりで立ち向かおうとするが、この道中で隊員たちが集結してくる……これ以降をばらすのはさすがに気が引けるので控えておこう。
 で、肝心の面白いのか? てところだが、……難しい。バカ映画には違いない、ていうか、クソ映画と言っても差し支えないかもしれない、何せ野中英次だからな。彼の漫画ならどうでもいいやってところだが、映画としてはどうなのよって話は正直当惑する。これを映画にまとめた監督をはじめとするスタッフのバカやる努力は嬉しい。出演者もがんばっている。主演の須賀の役作りは若かりし頃の武田真治を思い出させる。前田(山本浩司)の存在感のなさも原作どおりであるが、ほんとに存在が薄いので漫画で唯一の目立ちどころである突込みが終始弱弱しく、映画として何か乏しかった。林田はモヒカンではなくちょん髷、特に違和感はない。フレディ役の渡辺裕之も変じゃなかった、ラストで唐突に馬に乗って登場するのもいい。なんでもあり、ていうのを序盤で描けているので、終盤のひっちゃかめっちゃかな展開には寛容になれるから、メカ沢の暴走も許容範囲。面白いかどうかは別にして。一番の問題は、映画オリジナルのネタと原作ネタのギャグの差異である。質というか、温度が違う。ベタベタな馬鹿馬鹿しいオチの映画に対し、突拍子もない・というより投げやりな感じが漂う原作のオチ、この融合が果たせていない。私が笑ったのは原作ネタのみである。オチがわかっているのに可笑しいのは、原作の力だろう(それを実写にする監督たちの力もわからんではないが)。とにかく、予想がつく程度のばからしさっていうのが、白けた雰囲気を作りかねず、冷や冷やしてしまう。面白いなーあほらしいなーと楽しんで観られたんだけど、上映後の思い出し笑いがなかった。また観ればまた笑うと思う、けど何も残んない。むしろ原作と比較している冷静な自分に愕然とする。
 そういうはっきりしない余韻の中で、目立っていたのがやはり板尾創路の存在である。劇中の笑いどころを多く持っているマスクド竹之内を、コント130Rに近い趣で淡々と演じる彼がいるおかげで、私は全体的にこの映画を楽しめたと思う。そしてもう一人、短い出演時間の中でも他を圧倒するのが遠藤憲一である。演じるはプータン(相方は津田寛治か?)、はまり役である。「怖くないプー」という台詞があの声で聞ける、これだけで笑ってしまう、「怖くないプー」。
 この映画はまだ初号試写が済んだ段階で、映画祭での上映は実質二度目の試写というところか。公開までまだ間があるので、それまでの間に編集しなおされる可能性もある。まあ、いろいろとぺらぺら書いたところで公開されれば多分観に行くだろう、だってこういう映画はみんなと一緒に馬鹿になって憚りなくゲラゲラ笑うのが楽しいんだから。
 ……あー、でもやっぱ微妙かもしれない――
 さてしかし、映画祭では他に「隣人13号」も上映されてて、もちろん観ている。感想は公開後にしとこう。何せ原作より面白かったから! かなりいい映画だったから! 期待して損はしないから!