藤子・F・不二雄ファン必見 映画「サマータイムマシン・ブルース

 本広克行監督というと踊る大捜査線シリーズなわけだが、一方で個人的に撮りたい映画も撮っている監督でもある、「サトラレ」とか。犬童一心が「タッチ」なんか撮っちゃう一方で「メゾン・ド・ヒミコ」監督するようなもんかね。本広監督の最新作は、しがらみのない自分が撮りたい映画とあいなった、「サマータイムマシン・ブルース」。原作は弱冠25歳の上田誠で、彼が映画の脚本も担当し、もともとは舞台だった同作を映画用の本として書き上げた。
 タイトルから察せられるとおりにタイムマシン物だ。「バック・トゥ・ザ・フーチャー」シリーズとか色々あるけれど、本作にもっとも近いタイムマシン物は「ドラえもん」だ、藤子・F・不二雄のタイムマシン物なのだ。「ドラえもん」でもよく描かれたタイムパラドックスネタ、例えば大事なものを盗られてしまったので、なくなる前に戻って誰が犯人か確かめようとしてたら、心配になって自分で大事なものを確保、結局自分が犯人だった、みたいな話。あるいは「魔界大冒険」のような壮大な仕掛け、そいうものがたーくさん詰まった映画なのだ。もう見てて楽しいったらありゃしない。
 冒頭で物語のすべてとなる出来事が箇条書きのように流される。意味不明だけど、これが後々の謎解きで明かされるかと思うと、ワクワクして緊張してしまう。野球をするSF研究会の5人と、彼等を撮影する写真部の女の子。野球終えて銭湯へ。一方でさっきのフィルムを現像する写真部の二人(写真部とSF研は隣同士になっている)。暑い夏の昼下がり。各々部室に戻るSF研の4人。写真部の二人も加えてわいわいやってると残りの一人で帰ってくる。意味不明のことで盛り上がる室内だったが、はずみでこぼしたアイスがきっかけになってクーラーのリモコンを壊すという一大事に至る。リモコンでしか作動しないクーラー……。翌日、暑くて死にそうな彼等の前に、何故か現れたタイムマシン、なんじゃこりゃと遊びで動かすとほんとに動きやがって、グニャーとタイムスリップしてしまうのだ。
 かなり強引な展開ではあるが、クーラーのリモコンが壊れる前の昨日に戻って、それを取ってこよう、というのび太的な発想がもう素晴らしいというかばかばかしい。別に歴史的事件をどうこうしようとか言うんじゃないところが、藤子不二雄のSFイズム(すこしふしぎ)をくすぐり、脈絡のなかった昨日という一日が、次々と辻褄があっていく快感は、タイムマシン物の真骨頂ではないか。過去を変えることで未来が変わるというわけではない、すでに起こった昨日という意味がわからなかった一日が、今日の行動ですべての説明がついていく、今日と昨日を何度も往復して大暴れする5人のSF研究会、ある者は無邪気に遊びまわり、ある者はタイムパラドックスの危険性を知って奔走し、ある者は先輩に振り回されて死にかけたり、そりゃもうリモコンはあっちいったりこっちいったりの大冒険だ。
 そして謎の未来人・田村。彼が握る秘密とは一体なんなのか。ところ狭しと張り巡らされた伏線と小ネタの数々、気付くも良し、気付かなくても楽しい、これを見ずして藤子ファンは名乗れない!