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まあでもほったらかしもんなので、映画の話でも。
シムソンズ」、早速見た。かなり期待していたんだが、いやー期待を裏切らない青春映画の王道が気持ちよかった。「ロボコン」のカーリング版だね。これ見ればカーリングがスポーツだってわかるし、その奥深さも堪能できる。おまけに主演4人はみんなかわいいしな。こういうのってだいたい一人はお笑い担当のデブキャラ・ブサキャラがいるもんだが、この映画はみんなかわいい女の子、アイドル映画の側面もあるが、これが田中麗奈にとっての「がんばっていきまっしょい」とか、長澤まさみにとっての「ロボコン」みたいに、加藤ローサにとっての「シムソンズ」になるといいね。

でも、今一押しはこれ。単館上映がつらいところだけど、機会があれば観てほしい。渋谷シネ・ラ・セットにて上映中。
「イヌゴエ」
監督:横井健司  原案・脚本:永森祐二
プロデューサー:太田裕輝  音楽:遠藤浩二  撮影:下元哲
照明:高田宝重  録音:塩原政勝  美術:西村徹
主演:山本浩司 村上淳 馬渕英里何 宮下ともみ/ブン太 キャンディ/遠藤憲一

 ある日突然、犬の声が聞こえるようになった青年の話。と書くと、動物もののお涙頂戴感動系なんか想像してしまうだろうが、この映画は違う。なにせ当の犬の声を遠藤憲一が演じるのである、彼の声、知ってる? 低くて渋い声。ナレーションで聞いたことあるかもしれない。父がホームセンターで拾った犬を旅行に行くからといって息子である主人公・芹澤直喜(山本浩司)に預けていく、フレンチブルドッグというちっこいその不細工面の犬の声が遠藤憲一なのである。
 で、この映画、めっちゃ面白いんである。犬の声が聞こえるってだけで、意思の疎通が出来るわけではない。彼にはただ、その声・つぶやいているような声がぼそりと聞こえてくるだけなのである(ネタばれに絡んじゃうけど、犬の声が聞こえるきっかけになった出来事も用意されていて、それが後半の展開に繋がっていくんだが、青年の心の成長を実に丁寧にわかりやすく描いているのもいい)。この発想がいいでしょ。犬と会話できるわけじゃない、そういう気分になれるだけ(これにもちゃんと伏線がはってあるんだよな実は。これがこの映画の侮れないところ)。
 主人公の芹澤は臭気判定士で、臭いにはとても敏感な体質で外出するときはいつもマスクをするほど。この設定も犬の鼻のよさと絡んでくるわけで、計算されてるんだよ、このしたたかさが心地いい。ほんとに無駄がないの。それでいて青年の臭いに対する変化がゆったりと描かれてて、終盤、気が付けば彼は臭いもあっていいんじゃないのという見解に達し、それは周囲の人々まで動かすのである。彼は悪臭対策協会とかいうとこで働いてて、毎日悪臭の苦情処理と対策に奔走している。その過程で世の中にはいろんな臭いの元があるんだなーということを示す。これは当然今の消臭社会を意識してるんだな。まあそんな社会性は前面に出てはこないけど、そういうのを意識してしまった。
 父が置いていった犬の世話をすることになってしまった彼は、突然犬の声にそりゃびっくりするが、この第一声は観客もびっくりする。というか笑う。笑いまくる。本音炸裂。彼に抱き上げられて「人間はくっさいのー」、メス犬を見て「したいのー、交尾したいのー」と関西弁でぶつぶつ言う。映像からは伝わらない臭いを扱うために地味なというかわかりにくくなりやすいだろう話を、犬の本音を野太い声で言わせる(だってフレンチブルドッグの外見と声が全然あってないんだもん、なんかもうほんとに犬がしゃべってんの? 幻聴じゃないのという錯覚もちょっとしてしまう)。おかしさくて早く犬の声が聞きたくてたまらなくなってくるんだが、これがまた抑制されてて、なかなかしゃべんない。聞きたいときに聞けない。これがまた主人公の心情と重なってくる。
 ありがちといえばありがちだが、朝の犬の散歩で、同じく犬を散歩させている女性(宮下ともみ)と遭遇し、なんかいきなりいい感じになっていくのに違和感を覚えたが、実はこれにもそれなりの理由があって、話がきちんとつながっているんだ。画面も割りと引いた絵が多くて、ものすごい落ち着いた感じがずっと続く。抑制された演出は、最後にまたいい感じで躍動感を与えてくれる。毎日の朝の散歩が日課になった彼は、犬がいなくなったのに、朝、家から飛び出して散歩コースを駆けて行く、「なにやってんだ俺」という感情がじんわりと犬との別離の悲しみを煽る(そもそも父の旅行は一週間の予定なので、犬を預かる期間ははじめからわかっている)。
 別離のときが近づいてきて、声が聞こえることで情が移ってしまった彼は悲しいわけだが、その時に犬がメロディを華で歌うんである、これが悲しいけどおかしいとでも言おうか、ほたるのひかりで、で、なんでそんな曲知ってんだよという当然の疑問もちゃんと話の展開に繋がってて、それ以外にも観客があれなんだろう・きっとこうだろうという疑問をきちんと回収してくれるのもこの映画のいいところである。
 いやー本気で素晴らしい映画だった。